「前科者」映画感想(7/10点)原作マンガやドラマ版との比較あり

今回は「前科者」を鑑賞したのでレビューしていきます。

保護司である阿川佳代が前科者の更生を手助けをする姿が描かれるマンガ「前科者」のキャラや設定を引き継ぎつつ、映画用に書き下ろされたオリジナルストーリーとなっています。

ちなみに全6話構成のドラマ「前科者 -新米保護司・阿川佳代-」というのものもありましてこちらは阿川佳代が保護司になりたての頃の物語が描かれています。原作マンガからエピソードやキャラを持ってきてそこにアレンジを加えた形のモノになっています。

作品情報

監督:岸善幸
出演:有村架純、磯村勇斗、若葉竜也、マキタスポーツ、石橋静河、北村有起哉、宇野祥平、リリー・フランキー、木村多江、森田剛
製作年:2022年
製作国:日本
リリース:2022-1-28
上映時間:133分

あらすじ

阿川佳代はコンビニでのアルバイトで生計を立てながら罪を犯した者の更生を手助けする保護司として活動していた。阿川が担当していた工藤誠は社会復帰の道を順調に歩んでいたが、ある日弟のみのると偶然再会。同じころ、世間をにぎわせていた連続殺人事件の犯人がみのるだと誠は知る…。

感想

ヒメアノールで強烈な殺人鬼を演じた森田剛がまたそれっぽい役(?)で出演と聞いて興味を惹かれ観てきました。

映画を見る前に原作マンガを8巻まで読んで(最近9巻が出た)、ドラマ版も全話視聴して万全の態勢です。

しかし、原作とドラマ版を見たのが裏目に出たかもしれません。

このふたつがめちゃくちゃよすぎて、映画に求めるハードルが上がってしまったんですよ。

原作は、阿川佳代が前科者と交流を重ねるなかで見えてくる、罪を犯した者のそのやむにやまれぬ事情、そんな彼らが佳代と関わって心境が変化していく様子、また彼らを救いたい一心で体を張って再犯を防ごうとする佳代の姿などなど・・・これらがキレイごと抜きで実在感たっぷりに描かれていて、面白すぎて一気に読みきってしまいました。

ドラマ版はそんな原作の良さを受け継いで、丁寧に実写化した作品でした。佳代が自ら危険な場面に赴いて体を張って対象者を守る姿は何度見ても涙ぐんでしまいます。また、役者陣も素晴らしく有村架純さんが完全に佳代に見えるし、3、4話目で前科者として登場する石川二郎役の大東駿介さんの演技がすさまじい…!WOWOW制作だからかほかのキー局制作のドラマとは違って役者が全体的に落ち着いたトーンで演じていて、重厚感のあるつくりで見ごたえがあります。

そんな原作マンガとドラマ版を楽しんだ自分からすると、映画「前科者」は少々物足りない出来になっていました。

ひとことでいうと、見たいものをあまり見せてくれないんです。

僕が見たかったのは、原作の面白い部分だった、前科者(工藤誠)と佳代が二人三脚で更生に向かって歩んでいく姿です。

いや、実際には描かれてはいるのですが、映画の尺から考えるとあまりにも分量が少なすぎです…。

序盤こそ佳代と誠が直接会うシーンがあるものの、だんだんとみのる(誠の弟)による連続殺人事件と、この事件を追う刑事2人の話に比重がどんどん傾いていきます。

佳代と刑事のやりとりシーン、同じく誠とみのるのシーンが多くなり、佳代と誠は完全に分断されています。

佳代と誠が再び会うシーンがラストまでほぼないせいで、原作の魅力だった前科者と保護司の間に生まれるドラマも薄めです。

誠は、みのるの犯行に加担することになるわけですが、ここで佳代が誠を説得するために直接会いに行く展開なんかあってもよかったと思うんですよね。ついでに付け加えると誠が犯行に加担することに葛藤するシーンもないというのは不自然だと思いました。犯罪者の更生がテーマなのに、再び犯罪に手を染めることを本人がどう思っているかは描くべきだったのでは?(自分が見落としてるだけか?)

保護司と前科者の話を圧迫してまで繰り広げられる警察パートが面白ければそれはそれで文句はないのですが正直退屈です。警察はかなりバカだし、メインの刑事2人を悪徳っぽく描いているけど(傷跡をペンでえぐる)その悪徳っぷりも中途半端。捜査のサスペンスシーンも緊張感がありません。

誠が職場の先輩を殺すシーンや、誠たちの母が父に殺されるシーンなど直接見せてはくれないので「エグいもの見たい欲」も満たしてくれません。

文句ばかりになってしまいましたが、もし自分が原作を見ていなければ、そこそこ楽しめたんじゃないかなぁと思います。無償で前科者の更生を手助けする保護司という存在を初めて知っていい意味でショックを受けるだろうし…。

原作を先に読んだせいで、アレコレ自分の中で求めるものが固まってしまってちょっと偏屈な見方になったかもしれません。

まとめ

映画ならではのスケール感を出そうとして、原作やドラマでは見られないタイプの大きな事件を描いたことで、原作の魅力だった前科者と保護司の間で巻き起こるドラマが隅に追いやられた本末転倒な一作という印象です。

当然ながら現在進行形の事件の解決に臨むのは警察の仕事であり、保護司である佳代の領分ではないわけです。映画らしく話のスケールが大きくなるほど、佳代がそこに関わる余地は少なくなり、活躍の機会も減っていき、「前科者」らしさがなくなっていく…。

そう考えるとある程度の規模感が必要な長編映画には不向きな題材で、2話で1エピソード(計50分)のドラマ版があってるんじゃないかな。というかドラマ版はめちゃくちゃ面白いので、これからもシーズン2、シーズン3と続いていくことを願っています。

というわけで評価は7/10点としました。