「インスペクション ここで生きる」映画ネタバレ感想 自分が自分でいるために

映画「インスペクション ここで生きる」のあらすじと観た感想を紹介します。

結末のネタバレがあるのでご注意ください。

作品情報

ゲイの青年が海兵隊になるための訓練を受ける中でゲイ差別に立ち向かいながら自分の生きる道へ進んでいく姿を描くドラマ映画。

ゲイの青年エリス・フレンチは海兵隊への入隊を決意し、訓練所での生活をスタートさせる。しかし、彼がゲイであることが周りの新兵たちにバレてしまい差別を受けるようになる。エリスはそんな差別に立ち向かいながら、海兵隊になるために厳しい訓練に挑んでいく。

2022年製作/95分/R15+/アメリカ
原題:The Inspection

あらすじ

ゲイの青年が海兵隊入隊を決意

ゲイのエリス・フレンチは16歳のときに母親に捨てられ、それからずっとホームレスとして生きてきた。

青年となったいま、エリスは海兵隊への入隊を決意。そのために必要な出生証明書を疎遠となっている母親の家まで取りに行った。母親に海兵隊員になると告げ、出生証明書を受け取った。

エリスは出生証明書を持ちバスに揺られて訓練所に向かった。立派な海兵隊になるため3か月間の厳しい訓練を仲間の新兵たちと耐え抜くことになる。

ゲイであることがバレる

しかし、訓練後のシャワー中にゲイであることが仲間や教官にバレてしまう。それ以来、一部の新兵からイジメを受けるようになる。

一方、訓練中も自分を気にかけてくれたロサレス教官に恋愛感情を抱くようになる。

しかしエリスはその後、訓練中に新兵を“怪物”に育てたいと考えるロウズ教官から水中で溺れさせられ死にかける。

このことで一度は訓練所を後にしたエリスだったがロサレス教官に説得され再び訓練に戻る。

エリスは、あらゆる訓練で優秀な成績をおさめていく。

そんなある日、エリスは母親に電話をかけさせてほしいとロサレス教官に頼む。母には訓練所から何度も手紙を出していたが返事は来ていなかったのだった。ロサレス教官は自分が処罰されることを覚悟のうえで内緒で電話を貸してくれた。フレンチは母親に電話をして、海兵隊新兵訓練の修了式に来てほしいと頼む。母親はそれには答えず電話を切る。

最終訓練が終わったあと、エリスはシャワーを浴びているロサレス教官にアプローチをかけるが拒絶されてしまう。

母親との絆を確かめる

修了式の日。エリスの母親は息子のために式にやってきていた。エリスと母は式が終わった後、一緒に食事をする。母はエリスが海兵隊に入ってゲイからストレートに変わることを期待していたがフレンチはそれを否定した。すると母親は怒り出した。エリスは親子の関係を続けたいといったが、母親は息子がゲイであることを受け入れられないとその場を去っていった。

感想

自分が自分でいるために

まず前提として、本作は監督エレガンス・ブラットンさんの体験をもとにした映画です。ブラットンさんはゲイであることを理由に母親に16歳の時に捨てられ、10年間ホームレス生活を送ったのち、海兵隊に入隊した・・・と主人公エリスそのものの経歴です。

16歳の時、母親に捨てられホームレスとして生きてきたゲイのエリス・フレンチ。彼が生きる道として選んだのは海兵隊員になることでした。訓練所での生活中に、ゲイであることがバレてヒドい差別を受けるエリスはその差別に立ち向かいます。ゲイへの風当たりが強い軍隊において自分が自分でいるために差別と闘う姿が描かれます。

エリスはゲイであることが原因でそのことを受け入れられない母親に捨てられています。親子の関係を取り戻したいエリスは海兵隊員になるにあたって母に頻繁に連絡するようになります。母親にゲイである自分を肯定してほしいという気持ちがエリスにはあったようです。自分を作り出した人間に存在を否定されたままでは自己のアイデンティティを確立できずそのことがツラかったのでしょう。

一方の母親もゲイである息子を受け入れられない自分に苦しんでいました。彼女も息子に対する愛情があることは伺えます。冒頭、エリスが母の家を訪ねるシーンで彼女は若いころのエリスの写真を飾っています。おそらくその写真は息子がゲイであると母親が知る前=母親にとって息子がゲイではないときのものだから、あのように飾っていたのだろうと思われます。ゲイでない息子に対する愛情はあるが、ゲイの息子は受け入れることができないという複雑な感情があることを示すシーンです。

自分らしくいようとしても、周りからの圧力で自分を偽り押し殺して波風が立たないように生きてしまうことがあります。本作はそんな僕にとって大変勇気づけられるものでした。

主人公エリスのような性的マイノリティではない方でも、自分らしく生きたいと願うすべての人におすすめです。