「ホール・イン・ザ・グラウンド」映画感想(ネタバレ)陰鬱で不穏な雰囲気が最高なアイルランド製ホラー映画

ホール・イン・ザ・グラウンド(字幕版)
ホール・イン・ザ・グラウンド(字幕版)

「ホール・イン・ザ・グラウンド」は2019年のアイルランド製ホラー映画。

結末までのネタバレを含むのでご注意ください。

作品情報

監督:リー・クローニン

キャスト
サーナ・カーズレイク
ジェームズ・コスモ
ジェームズ・クイン・マーキー
カティ・オウティネン

原題:The Hole in the Ground

製作年:2019年

製作国:アイルランド

上映時間:90分

感想

不穏な雰囲気が素晴らしいホラー映画でした。

アイルランドの田舎町でひとり息子のクリスと暮らすシングルマザーのサラ。ある日を境にクリスが不審な行動を取るようになり、サラは息子の行動と家の裏に広がる陥没穴との関係を疑い始める。

※【重要なネタバレなしの感想】とその後【重要なネタバレを含む感想】が続きます。

丁寧に作られたホラー映画で、面白かったです。映像はもちろん、撮影、音楽、ロケーション、小道具などよく練られていて作り手の情熱を感じます。

恐ろしい姿のお化けが出てきてギャーと驚かせるタイプの作品ではありません。静かな恐怖演出で観客をどんどん不安な気持ちにさせていく手法です。これまではお化けにビビらされるホラーが好みで、本作のような(ほぼ)陰鬱な雰囲気が漂うだけの映画を観ると「もっとビビらせてくれや!」と感じていました。しかし、本作を観てからは「こういう映画もいいもんだな…」と思うようになりました。言ってしまえば雰囲気映画に分類されると思います。ショッキングな出来事はあまり起こりませんが、代わりにひたすら何か嫌なことが起こりそうな不穏な感じが続き、緊張感が途切れません。彩度が若干低めな色彩、不安をあおる音楽、僻地の田舎町というロケーション、ダイナミックな撮影などあらゆる演出が組み合わさってこのような手触りの作品が出来上がっていると感じました。おそらく主人公であるセーラの感じている主観的な恐怖をなんとか観客にも体験させるために、監督がこういった雰囲気の映画にしたかったのではないかと思います。(といってもショッキングな恐怖描写もきちんとあります。例えば、クリスが蜘蛛を捕まえて食べるとか、クリスがセーラの頭の傷をえぐるとか)

セーラは、ひとり息子のクリスと共に田舎町の家に引っ越してきて新たな生活をスタートさせます。そのうちクリスのおかしな言動を何度も目にしたセーラは、「今ここにいるのは息子ではなく息子の姿をした別の何かだ」と確信するに至ります。ただし、セーラは精神疾患を抱えているという描写もあり、息子の不可解な言動というのもセーラの幻覚ではないのかと匂わせています。この映画で起こっていることは現実か妄想か?というクラクラする感覚を楽しめる作品になっています。

最初のカットはセーラの顔のアップから始まります。これから映画内で起きることはセーラが主観的に見たものであると宣言しているかのようです。そして次のカットでは息子のクリスが歪んだ鏡にむかってポーズをとっています。その姿は異様に変形しておりクリスが何者かと入れ替わってしまうことを暗示しています。

鏡は他にも重要なアイテムとして登場しています。セーラに、「クリスはあなたの息子ではない」と叫ぶ印象的な老婆も、セーラと同様に、自分の息子が別の何かと入れ替わったと過去に主張していた人物です。その老婆は家の壁に無数の鏡を取り付け、「鏡は常に真実を語る」という考えのもと、その人物が本物かどうか見分けていたと、その夫は言います。そういえば、序盤でセーラがこの老婆を道で危うく轢きそうになった時、車のサイドミラーがへし折れたのも何か意味がありそうです。というか、サイドミラーがなぜ取れたのかもはっきりと映っていません。まさか、老婆に当たって取れたということはないでしょうが…。セーラが家の壁紙を新しいものに変えますが、その壁紙も「壁に取り付けられた無数の鏡」に見えなくもありません。


ここから重要なネタバレを含みます


どこまでが現実でどこからがセーラのみた幻覚なんだろう、と考えてみるのも楽しみ方の一つです。

まずは、すべて現実だったパターン。クリスはいつかのタイミングでクリスの姿をした何かと入れ替わってしまったことは事実だったということになります。ラストで家の近くにある大きな穴に本物のクリスが閉じ込められており、セーラはクリスを穴から助け出します。その際、謎の化け物が登場しますので、おそらくクリスの偽物もこの化け物が擬態した姿だったのではないでしょうか。

次に、クリスが不可解な言動をとっているというのはセーラの見た幻覚であり、クリスが偽物と入れ替わっているというのは真実ではないパターン。この場合、セーラは本物のクリスを家に閉じこめ、その家に火を放つというバッドエンドになります。さらにいうと、セーラは大きな穴から偽物のクリスを助け出し、それを本物だと思って暮らしていることに…。

個人的にはセーラに対しクリスはあなたの息子ではないと老婆が忠告するシーンもセーラの見た幻覚ではないのかと思っています。セーラはもともと内心「このクリスは偽物かもしれない」と考えており、それが見聞きした別の情報と合わさり、幻覚として現れたのではないでしょうか。序盤でセーラが友人と食事をしているシーンがあります。そこで、ひとりの友人が他愛もない昔話をします。その友人曰く、「トムという男が車から降りてきて道をふさぐなと怒鳴った。そして、こちらの車までやってきてボンネットに手をついた。」その話を聞いた別の友人はそれはまるで“叫ぶ隣人”だと言います。この“叫ぶ隣人”というのは例の老婆のことです。その後のシーンでセーラは老婆と出会います。道をふさいでいた老婆にそのことを注意すると車の近くまでやってきて「それはあなたの息子ではない」とセーラの車のガラスを叩きながら叫びます。これは先ほどの友人の話に出てきた話と似たようなシチュエーションです。「友人が道をふさいでいた」は「老婆が道をふさいでいた」、「こちらの車までやってきてボンネットを叩いた」は「老婆がセーラの車のガラスを叩いた」、そして、「昔、叫ぶ隣人がいた」は「老婆が“それはあなたの息子ではない”と叫んだ」これらのエピソードがひとつに合わさりセーラの幻覚となったのではないでしょうか。となると、セーラがその後老婆が頭を地面に埋めて死亡していたところを目撃したというシーンもおそらく幻覚ですね。そしてこの後、クリスがセーラの頭を地面に埋めるという似た描写があり、こちらも幻覚ということになります。二度もよく似た描写を入れるのだから重要な意味がありそうですがイマイチよくわかりません。頭だけを穴に入れるということに注目するとセーラは自分の頭の傷が嫌で(過去に元夫から暴力を受けてできたもの?)、頭を地面に埋めて他人から見えないようにしたいという心理状態が2度の幻覚として現れた…。う~ん、頓珍漢なことを言っているような気がしますね(笑)

総評

丁寧に作られた陰鬱で不穏な空気が最高なホラー映画です。どこまでが現実でどこからが幻覚だろうと考えるのも楽しいです。

というわけで評価は9/10 としました。

ストーリー紹介

シングルマザーのセーラは息子のクリスとともに引っ越し先の田舎町で生活を開始します。

ある日を境にクリスが不審な行動をとるようになったことに気づいたセーラ。

その後、道端で出会ったノリーンという老婆はクリスを見て「それはあなたの息子ではない」と大声でセーラに叫びます。

その後もクリスの言動がおかしいと感じたセーラは、クリスが自分の息子ではないと確信しました。そこで、偽物を家に閉じこめ本物のクリスを取り戻すため近くの森にある大きな穴に向かいます。

穴の奥で本物のクリスを見つけたセーラは、謎の怪物に追われながらもなんとかその場からクリスを助け出します。

セーラは偽物を閉じこめた自宅に火をつけ、クリスと共にその場を後にします。

セーラとクリスは新たな家で生活をスタートさせました。

セーラは、今一緒に暮らしているクリスが本物かどうか疑っており、クリスを観察し続けていました。

おわり

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