「ラ・ヨローナ ~彷徨う女~」映画感想ネタバレ(10/10点)人の怨念をじっくりと描く良作ホラー映画

今回は「ラ・ヨローナ ~彷徨う女~」を鑑賞しました。


ジャケットにはある家でメイドとして働くことになるミステリアスな女性アルマが映っています。このジャケット、同じ怪談がもとになっているとはいえ死霊館シリーズの「ラ・ヨローナ 泣く女」に似すぎですね。

かつてグアテマラの内戦で虐殺を指揮した将軍が無罪となるが、そのころから彼はすすり泣く女の声を聴くようになって…というホラー映画。

まぁホラー映画というくくりでありながら実際に起きた虐殺をもとにした社会派ドラマでもあり見ごたえは十分です。

個人的な評価は10/10点です。

作品情報

監督:ハイロ・ブスタマンテ
出演:マリア・メルセデス・コロイ、マルガリータ・ケネフィック、サブリナ・デ・ラ・ホス、フリオ・ディアス
原題:La Llorona
製作年:97分
製作国:グアテマラ
リリース:2021年1月8日
上映時間:97分
映画サイトでの評価:「IMDB」6.5/10点、「フィルマークス」/5点。

ストーリー紹介

ストーリーの流れを知りたい方はこちらをクリックしてください。(ネタバレを含みます)

グアテマラ政府軍のエンリケ・モンテベルデ将軍。彼は過去に先住民族の虐殺を止められる権利を持つにもかかわらず止めなかったことで裁判にかけられ有罪が確定。しかし、のちにその有罪が証拠不十分で無効となる。

エンリケが無罪になったことに激怒した民衆たちはエンリケの自宅を取り囲み抗議活動を行う。

そのためエンリケやその家族は家から一歩も出ない生活を強いられることになる。

同じころ、エンリケの家でアルマという女性を住み込みのメイドとして雇うことになる。アルマはエンリケの孫であるサラと仲良くなり、サラに水中での息止めを教えるようになる。

そんな生活の中、エンリケは夜中にすすり泣く女がいるといって家を歩き回り家族を傷つけるなどおかしな行動が目立つようになる。

ある日の夜、エンリケはベッドから起き上がり自宅にあるプールに向かう。そこでプールに沈んでいくアルマを目撃しプールの中に銃弾を撃ち込む。プールの中にはアルマではなくサラがおり彼女の腕に銃弾が命中。

エンリケは家族に取り押さえられ拘束される。そのタイミングで、エンリケの妻たちは家の庭に虐殺の犠牲者の亡霊らしき子供たちが立っていることに気づく。

ひとりのメイドが亡霊に命を乞う呪文を唱える間にエンリケの妻が突然豹変しエンリケの首を絞めて殺してしまう。

後日、エンリケの葬儀が行われその会場のトイレで水があふれだし床が水浸しになっていく。そこに居合わせたのはエンリケと同じく虐殺にかかわったあるひとりの人物だった。

感想

ホラー映画というよりは社会派ドラマ要素が強い

グアテマラで実際に起きた政府軍による民間人虐殺を扱った社会派ドラマです。観客を怖がらせることが主眼のホラー映画ではなく、ホラー的手法を使って人間の怨念を描いている感じですね。バリバリ怖がらせてくれるホラー映画を期待すると肩透かしを食らうかもしれませんのでその点はご注意ください。

ただ、じわじわと迫る恐怖感演出は上手く、ジャンプスケアを多用したホラーよりも静かなホラーが好きな方には結構オススメできます。なんといっても主人公家族の屋敷で働くことになるメイドのアルマの不気味な存在感が超怖い。彼女の素性ははっきりと語られずどこか超現実的でミステリアスな存在感を放っていてます。二段ベッドの上段から逆さまに顔をのぞかせる場面や、水に顔をつけている場面など長髪・黒髪を生かしたゾッとする描写が超イイですね。アルマがエンリケの孫娘・サラに息止めを教えるなんて描写も危なっかしさがあって、見ていてヒリヒリする不安感に襲われます。

アルマの正体とは?

上記の通りアルマについての具体的な説明はないのですが(そこがまた怖い)、おそらく本作のタイトルにもなっているラ・ヨローナがモチーフになっていると思われます。その理由を語る前にまずラ・ヨローナとは何かを簡単に紹介します。ラヨローナとは、中南米に古くから伝わる怪談とされていて、死霊館シリーズの一作として製作された「ラ・ヨローナ〜泣く女〜」でこの怪談を知ったという方が多いと思われます(僕もそうです)。ラ・ヨローナという怪談についての情報が日本語では「ラ・ヨローナ〜泣く女〜」から得られるものがほとんどなのでこの映画から拝借します。

ラ・ヨローナは直訳ですすり泣く女…。夫に浮気された女性が嫉妬に狂い自分の子供二人を川で溺死させ、その後自身も川で入水自殺をした。のちにその女性は亡霊となり、水のある所に現れては自分の泣く声を聞いたことどもたちをさらっていってしまう。

これが「ラ・ヨローナ〜泣く女〜」で語られるラ・ヨローナの怪談。

「ラ・ヨローナ ~彷徨う女~」では具体的にこの怪談が説明されるわけではありませんが、怪談を知ったうえで本作を見るとアルマがラ・ヨローナをモチーフにしていると思われる情報がちりばめられています。

※アルマが夫の浮気や自分の子供を溺死させたわけではないではないので「泣く女」の方で語られる怪談とは少し内容が違いますが、これは怪談自体に別のバリエーションがあってそちらを取り入れたのか、あるいは「彷徨う女」なりのアレンジということだと思います。

わかりやすいところでいうとアルマには子供が二人いたがすでに死んでいる点。これはもろにラ・ヨローナの設定をなぞっています。あとは彼女が川の近くに住んでいたという話も出てきます。そして、アルマが服を着たままプールにつかる、顔を水につける、湯船で髪をとかすなど水=川を連想させる描写が多く登場します。このあたりからアルマがラ・ヨローナという亡霊であることがうかがえます。

そして、アルマがなぜラ・ヨローナになったのかを示すシーンもあります。

それはエンリケの妻が見る夢です。アルマが銃で撃たれて死亡する場面や彼女の子供二人が軍人に川で溺死させられようとする場面がエンリケの妻が見る悪夢に登場します。しかも、エンリケの孫娘のサラの発言で「アルマはエンリケのことを昔から知っている」とあるので、エンリケの妻が見た夢のシーンは実際に起こったことでその場にはエンリケもいたということでしょう。虐殺の被害者となったアルマ=ラ・ヨローナはエンリケが虐殺の件で無罪になったことでその怨念を晴らすべくメイドとして彼の屋敷に入り込み、エンリケを呪い殺そうとしたのだと思います。

ここで気になるのはアルマがなぜ自らの手でエンリケを殺さなかったのかということです。エンリケを実際に殺すのは彼の妻です。妻が夢の中でエンリケの首を絞めたら、現実世界でも同じくエンリケの首を絞めていた…というわけです。これは、アルマがエンリケの妻に悪夢を見させて自分の代わりにエンリケを殺させたとみることができると思います。妻にエンリケを殺させたのは、この妻がエンリケの虐殺をかばう立場だったこと(序盤でそういう発言がある)をアルマが許せなかったからだと僕は考えます。アルマはエンリケの妻に対し「夫がいかにひどい行為に及んだか」ということを当事者視点の夢を見させることで実感させようとしたのではないでしょうか。

ちなみにこの首絞めシーン…。妻が亡霊に体を乗っ取られて自分の意思に反して首を絞めたようにも見えます。しかし、夢を見たことで夫の虐殺に対しての考えが変わった妻が夫に対して自らの怒りをぶつけたという見方もできると思います。

本作でエンリケの妻は重要な人物で、虐殺で殺された人間の怨念や民衆の怒りをまざまざと実感したことで、虐殺に対して彼女の考えが変わっていく様子がじっくりと描かれていています。その辺りに注目しながら見てみるのも面白いと思います。

・社会派ドラマであり悲惨なホームドラマ

本作がホラーでありながら社会派ドラマ要素が強いというのはすでに書いた通りですが、それに加えてある家族が悲惨な状況に陥るホームドラマとしての側面もあります。そしてそれがまた悲惨すぎて面白い。アルマが屋敷にもぐりこんだ狙いはエンリケを呪い殺すこともそうですが、家族を崩壊させることも一つにあったようです。詳しくは省きますが、アルマはエンリケの醜態を家族に見させることを狙っており、それによってエンリケに対する家族からの尊敬の念をごっそりと奪い去っています。エンリケの家族は、エンリケに対し尊敬の念がなくなってもそれでも家族だからとトラブルは最小限に一緒に暮らしていたわけですが、終盤ではアルマの一手によりいよいよ修復不可能なレベルに家族崩壊が起こってしまいます。

まとめ

ホラーであり、社会派ドラマであり、ホームドラマであり・・・。どの要素を取ってもみてもクオリティの高い映画だと感じました。

ド直球のホラー映画を期待すると肩透かしを食らうと思うので、初めからその点は留意しておくのが良いと思います。

書き忘れましたが、認知症を患った親あるいは祖父母の介護モノホームドラマとしてみるとなかなかゾッとしてゲッソリできます。

あと、いつも中南米ホラーは北米やその他の地域にはない、共通の怖さがあるよなと思っていて…。その共通点が今までわかっていませんでしたが本作を見ると、人(死者)の怨念や呪いをシュールにみえるほど静かなタッチで描くというのが一つの特徴かなと思ったりしました。

というわけで評価は10/10点としました。

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